Gオンは旅先で遅い食事を終えて、ホテルへ戻る途中だった。
公園の近くを通りかかりふと見ると、数本のイチョウの木の中に1本だけ丸裸の木があった。
なぜ1本だけが…おかしなこともあるものだな…と思った。
だがもう真っ暗なので、明日にでもまた見てみようと、ホテルへの道を急いだ。
(近道していくか)
狭い路地に入ったとき、暗かったので何かに軽くつまづいた。
目をこらして見ると、何者かがうずくまっていた。
酔っぱらいだろうか?秋も深まってきているこの時期、こんな所で寝ては確実に風邪をひく。
「君、大丈夫かい?」
うずくまった彼を見て、Gオンは息をのんだ。
Zロリだったのだ。
抱き起こしてみると Zロリの体は あの吹雪の日よりも軽かった。
「Zロリ どうしたんだ?」
話しかけると ほわぁ…と目を開けるが、焦点が定まっていない。
一目でわかるほど、Zロリは弱っていた。いったいどのくらい食事をしていないのだろう。
目の周りには濃いくまがあり、睡眠もほとんどとっていないのがわかる。
その時、Zロリの手から白い包みがこぼれ落ちようとした。
今までぐったりしていたのが嘘のようにZロリはすばやくそれをすくい上げ、大切そうに抱きかかえた。
「お、おれさま…これを持って早く帰らなきゃ…」
包みの隙間からサンドイッチが見えた。
Zロリは空腹なのに それに手をつけようとはしない。
「帰らなきゃ…Mャン王女が…おれさまを待ってる…」
帰らなきゃと言いながら、体力は限界を超えており、
よろよろと数歩歩いてはコテンと倒れる。息をするのも辛そうだ。
「大丈夫かZロリ!」
Zロリは足を投げ出したまま、Gオンの方を向いてつぶやいた。
「Gオン…おれさまが…おまえみたいにお城の王子様だったら…
もっともっと、あの子が喜ぶことができるのに……
Mャン王女を もっときちんとしたホテルに泊まらせて…ごちそうだってたくさんするのに…
イチョウの葉っぱで寝ているんだ…公園で野宿して…食べ物は少ししか食べられない…」
Zロリの目を、じっとのぞき込んで Gオンは理解した。
「私のことを…幻覚だと思っているのか…」
そしてもうひとつ。Zロリの心は今、“Mャン王女”のことでいっぱいだということも、…理解した。
「おれさまは…おれさまは…あの子をもっと、もっと幸せにしたいのに…」
夜の色をしたZロリの瞳に いくつもの星が生まれ、あとからあとからこぼれ落ちた。
「今行くから…食事が遅くなって…ごめんよ…お腹がすいただろう…
明日は…遊園地に…行くんだったね…あぁ…楽しいだろうな…」
やっとのことで立ち上がり、数歩進んでまた倒れる。
「かわいい…Mャン王女…かわいい…」
「しっかりしろ!かわいいのは君だ」
うわごとのようにMャン王女の名を繰り返すZロリを抱いて、Gオンは歩きだした。
(公園のイチョウの葉を使ったのはZロリだったんだな)
ならば、その近くまでZロリを連れて戻ればいいのだ。
イチョウの木に近い場所で、GオンはそっとZロリをおろした。
Zロリは眠っている。今回はこのまま別れた方がよさそうだ。
いつものようにバラを出そうとして思いとどまった。形で残してはいけない気がしたのだ。
バラのかわりに、花びらがふれあうような やさしいキスをした。
「また逢おう。Zロリ」
そして本当に二人はまたすぐ逢うことになる。
Gオンが思わず笑ってしまったぐらい、すぐに。
おわり