Gオンは奥の部屋へ通され Zロリが目覚めた 同じベッドに腰掛けた。

「ゆっくりお休み下さい」

そのまま去ろうとするZロリを、Gオンは引きとめた。

「キミと話がしたい」

「私はここへ来てまだ日が浅いので…ご案内ならシスターを呼びます」
「違う。キミのことが知りたいんだ」

「王子様が?…私のことを…??」

不思議そうな眼と、真剣な眼差しが しばし見つめあう。

Zロリは戸惑いながらも、ぽつりぽつりと語りだした。

「ここで目覚めたとき…私は何も覚えていませんでした。
自分が何者なのか、どこへ行き、何をしようとしていたのかも…」

でも…さっきはZロリと呼ぶ声に即答した

「その…名前だけは覚えていたのかい?」

「いえ…あのう…イノシシの双子と、人形のような男の子が訪ねて来まして。
私をそう呼ぶので、それが私の名前なのかな…って」

なんということだ。
あんなに一緒だった双子のことを忘れているのか。

Gオンの脳裏を 彼に出会ってからの、さまざまな想い出が走馬灯のように駆け巡った。

旅先で 凍死寸前だった彼を発見し、ヒエール国に着くまで必死に命をつないだのが出会いだった。

どちらのブックラコイータがすごいのか
どちらが先に良い子スタンプを12個集めるのか
どちらがおばけイカを退治するのか

どちらが勝利するのか 何度も全力でぶつかりあううちに、ぎこちなく 少しずつ近づいていった 二人の心。
それを全て忘れたというのか…Zロリ。

信じたくなかった。嘘だ。嘘だと言ってくれ。…そうか さてはいたずらだな?!
Gオンは 今にもドアがばぁん!と開いて、ハデなプラカードを持った双子が現れ、その後みんなで

「ドッ○リ大成功!」

などとポーズをキメるのを待った。

だが、なにも起こらない。

彼は本当に全てを忘れ、この修道院で暮らしているのだ。
毎日神に祈りを捧げ、慎ましく穏やかな日々を過ごしているのだ。

それが彼には心地よいのかもしれない。記憶を取り戻そうと、悩んだりしている様子がないからだ。

「キミは…すぐにでも記憶を取り戻したくはないのか?」

「私を訪ねてきた双子から 少し話を聞いたんです。…正直 思い出すのが恐ろしい」

「なぜ?」

「私はとても罪深い過去を背負っているようなのです」

「だが…キミは地球を救ったことだってあるじゃないか」

Zロリは 天使のように微笑んだ。Gオンを 澄み切った眼で まっすぐに見つめて言った。

「そんなことが本当にできたらすてきです。王子様 あなたはとても優しいんですね」

王子様。

この言葉が持つ、圧倒的絶望的距離感。
こんなに そばにいるのに。手を触れることだって、肩を抱くことだって 今すぐできる距離にいるのに
彼の心は 手の届かないところにあるのだと思い知らされる。

「私がこうしてここにいるのは きっと運命なんです。…その運命を受け入れるのが…私の道なのです」

その言葉はあまりにも衝撃的だった。
なんということだ…キミはいつも 言っていたじゃないか

「自分の運命は自分で切り拓く」

それがキミの信念だった。 大好きなママの教えだったじゃないか…
それさえも忘れたのかZロリ…私のZロリ…

「どうされたのですか…王子様 これで涙を拭いて下さい」

その声と共に清潔なハンカチを差し出されるまで、Gオンは自分が泣いていることに気がつかなかった。

自分の知っているZロリとは…あまりにも違う。

「誰が何と言おうと…キミの人生はキミのものだ…ここで暮らしていく運命を受け入れるのも自由だ…
だが…まだ志半ばの かいけつZロリが…何と言うかな…?」

こう言わずにはいられなかった。

その強い想いが かいけつZロリという名が 深く眠る記憶を揺らす。
断片的な想い出が いくつもいくつも脳裏をかすめていくのだが
Zロリには まだそれをうまくキャッチすることができなかった。
でも 目の前にいる王子は …いや、この涙を流している人は
自分にとって 大切な人だという気がしてならない。

「なぜだろう…私は…あなたを待っていた気がします」

Gオンは ハンカチを持った彼の手を取った。心はもう喜びにあふれていた。

「やっと気がついてくれたんだね…Zロリ。 悪い魔法を 今解いてあげよう」

そのまま 細い体を抱き寄せて 王子様のキスをする。

「ああぁっ…あのっ…私は男ですよ」

頬を染めて抗議するZロリを Gオンは軽く制した。

「自分が何者かさえわからなくなっているキミが 男か女かなど 気にする必要があるのかい?」

そう言われてみれば それも一理あるという気がしてくる。

「迎えに来たよ」

ダムの町で再会したのは 神の導きだったのかも知れない。


夕暮れの町に 妙なる鐘の音が響きわたっていた。



                                                      おわり

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